私は孫娘の手をつないで七里ヶ浜の海岸を散歩していた。
この春、息子が七里ヶ浜に家を建てた。
彼はおじいちゃんが大好きで父も本当に可愛いがっていた。
いつしかこの七里ヶ浜は若者たちがサーフィンを楽しむ場所にと
変わっていた。
「お母さん、七里ヶ浜いいでしょう。おじいちゃんの思い出の近くに
住むのもなんか縁だね。」と息子が言ってる。私は孫娘に
「ハーちゃん、バレエ習ってみたら?」と自分を重ねるように言ってた。
ここ七里ヶ浜にはエリアナ、パブロバ親子の記念碑がある。
父が亡くなって20年になる。
遠い昔に父と二人で七里ヶ浜を散歩していた時のこと~
「お父さん、知っている?あそこのお化け屋敷、有名なバレエ教室
みたいよ。酒屋の恵子ちゃんもあそこのバレエ教室にお稽古に行ってるんだって、私もバレエ習ってみたいな、ダメかな?ねぇ、ねぇどう?」
甘えた声で話しかけると、一言「バレエだって、君の体型はバレエにむいてない。」それから長い事父は黙って砂浜を歩いていた。
年のいった子供なのであまり怒られたことはなかったから、
こんなに怖い顔で怒ってる父ははじめてだった。
確かに私はポッチャリでバレエなどほど遠いとはわかっていたが、
突然不機嫌になった父の後ろを涙を浮かべながら歩いていた。
またこんなことも、父と中学生だった姉と三人で江ノ電に乗っていた時の
事だった。姉が「あっ、パブロバさんが乗ってる。」この当時は今とは
違って町で外国人を見かけるのはとても珍しい事だった。
私は「どこ、どこ?」「あそこよ、窓側の席」と姉が言った。
その時、父がナデジタだ。会いたくないから席を移ろう」と言って前の
車両に移って行った。ナデジタは父に気がついたらしく、スッと立ち上がり
少し足を引きずるようにしてゆっくりと歩き出し父の前に来た。そして、
なにやら父と話をして、話がすむと又ゆっくりと元の席に戻って行った。
後で父に何の話なのと聞くと「壊れた電球を変えてほしいそうだ。」と
無表情に答えた。なんで壊れた電球を父に頼むのかな?
電気屋さんでもないのになんでと不思議に思った。
又又こんなことも「バレエリーナと将校との恋」という映画のタイトルが
新聞に載った。父がポツリと「よく嘘の物語が作れるな。」
と言ったのが聞こえた。
何も語らなかった父だが、その頃からやはりきっと知り合いなんだ
と強く思い始めた。
