あれから20数年が過ぎてすっかりバレエの事は忘れていた。
七里ヶ浜のお化け屋敷が取り壊され新たに建て直されることをしった。
お化け屋敷のご主人様ナデジタ.パブロバが亡くなり今まで公開されて
いなかった写真や手紙や日記が出てきたのだ。(ナデジタはエリアナの妹)
なんと驚いたことにその中に父の写真と名前があったのだ。
日記の中には父との恋の話もあり当時のお手伝いさんだった
オーリガ毛馬内さんが「エリアナが本当に愛した人は
照明技師の彼ですよ、一緒にダンスしている写真もありますよ。」
というコメントを新聞で読んだ。
やっぱり知り合いだった。
それもただの知り合いでなくて恋人だったの?
そっと父の顔を見ながら微笑んだ。
そして父は怒りもせずにゆっくり話し出した。
「昔、ロシアから亡命してきた親子がいてね、七里ヶ浜に洋館を
建てたんだ。君がよく言ってたあのお化け屋敷だよ。
海が一望、素晴らしい建物だった。
壊すと聞いた時はもったいないなと思ったよ。
あの家の電気工事は全部父さんが一人でやったんだ。
毎日東京から東海道線と江ノ電に乗ってね。
しかしあの母親は今思い出しても好きになれない。
当時私は舞台照明技師で踊り子の素晴らしさを引き出すことしか
頭になかったんだ。きっと母親は若いただの照明技師が
気に入らなかったのだろう。
色々な所へ一緒に巡業もしたが、エリアナと二人になってはいけない、
伯爵家にとつがせるから近づくなと会う度に大きな声で
私にいつも怒鳴ってたよ。私は貧乏な照明やだからね。
中国に慰問に行った時などは見張りもつけたそうだ。
でも彼女は私の照明でいつも踊りたいと言ってくれてたよ。」
ちらっと父を見ると懐かしそうに新しく建て直された
パブロバ館のパンフレットを見ていた。
父は80歳になっていた。
